大きな岩に男女二神が堂々と刻まれた双体道祖神です。
円輪型の中区の脇には「本州高遠住石工四良右門兼氏作」と、制作した石工の名前が刻まれています。
道祖神に石工の名が明記されている例は珍しく、松本平でも高遠石工の名を確認できる像はわずかといわれています。誰が制作したのかを現在までたどることのできる、資料的にも貴重な道祖神です。
男神は烏帽子をかぶり狩衣装束をまとい、両足をやや開いて正面を向いて立っています。女神は十二単衣を思わせる装いで、両足をそろえて男神と並びます。
二神はそれぞれ内側の手を相手の肩へかけ、もう一方の手を互いに握り合っています。握手する部分はやや複雑で独特な形に彫られており、細部まで観察してみたいポイントです。
特に印象的なのが、二神それぞれの顔立ちです。
男神は太い眉と大きな目を持ち、長く表現された耳たぶとともに、若々しくも堂々とした力強い表情を見せています。その姿は武人を思わせるほどの存在感があります。
対する女神は、ふくよかな頬と柔らかな輪郭を持ち、目元にはほのかな笑みが感じられます。豊かな髪と穏やかな表情が丁寧に表現され、男神の力強さとは対照的な、若々しく優美な姿に仕上げられています。
巨岩を使った堂々とした姿と、男女それぞれの個性を感じさせる人物表現。そして何より、作者である高遠石工の名が石に残されていることが、この道祖神の大きな特徴です。
石像としての造形だけでなく、松本平で活躍した高遠石工の仕事を現在に伝える資料としても興味深い一体です。